COVID-19という新型コロナウイルス感染症が発生してから1年が経ちました。感染の拡大を抑えるために,手洗い,咳エチケット,マスクの着用,そして“3密”と呼ばれる密閉・密集・密接を避けることが社会の常識となり,定着しつつある今日この頃です。
このような社会情勢の中においても,社会システムの維持管理は,手を緩めることができない大切なものであり,非破壊検査に携わる皆様の貢献は,これまでにも増して,不可欠かつ重要なものになってきていると認識しております。このような状況の中で,日々の検査業務に携わる皆様に,あらためて,敬意を申し上げます。
さて,JSNDI東北支部では,昨年は中止になった支部会・講演会をオンライン開催しました。会議や学術講演会をオンラインで行うことは,1年前は思いつきもしなかったことですが,コロナ禍のもとで,たった1年で社会に浸透してしまった新手法です。令和3年度の支部会は,東北支部の三原支部長の決断で,このオンラインで開催することになりました。
昨年10月の日本非破壊検査協会の秋季講演大会は,オンラインで開催されましたが,当協会の地方支部の公式な行事をオンラインで行う取り組みは恐らく東北支部が初めて行う試みだったのではないかと思います。そこで,今回の支部だよりは,この支部会オンライン開催について報告させていただきたいと思います。
東北支部の支部会は,以下の3部構成で行われました。
@研究発表を行う「学術講演会」
A1時間程の特別講演
B各種表彰と支部の活動実績・計画を説明する支部会
これらをオンライン上で滞りなく実施することが求められました。
最初の学術講演に関しては,オンライン学会やオンライン講義でこのシステムに慣れている学生さんや研究職や技術職の皆様が講演者になることから,それほどの心配はなく取り組むことができました。支部側の運営については,秋季講演大会等で既に経験なされた協会本部の資料を活用させて頂くことにして,オンラインシステムの使い方のマニュアルや講演セッションの座長が行うべき事前点呼や講演の進め方の説明事項については,JSNDI本部のご好意により学術講演会用のマニュアルを使わせて頂くことでスムーズな事前準備ができました。
今回の支部会では,渦電流探傷が2件,磁気探傷1件,超音波探傷3件の合計6件の学術講演が行われました。講演内容はいずれの講演も新規な切り口で非破壊検査の領域を広げるような興味深い内容であり,コロナ禍にもかかわらず,学生さんをはじめ,研究に携わる皆様のアクティビティは高いまま維持されているという印象を受けました。
特別講演では,宮城県仙台市に建設が決定した次世代放射光施設について,(株)光エンジニアリングサービスの鈴木勝彦 分析評価部長にご講演を頂きました。講演題目は「放射光を活用した非破壊測定の基礎と応用」です。仙台に造られる次世代放射光施設は,材料の性質を明らかにする軟X線領域の放射光を発生するスペックを有し,世界トップクラスの高輝度な放射光を発生することができる施設ということで,元素の化学状態分析,表面分析,微細加工に利点を有する施設です。この施設は非破壊検査にも応用が可能で,材料内部の微細な欠陥がX線検査よりも高精細に観察できる他,CTによる三次元撮影も可能ということで,聴講者の皆様の興味を引いていました。会場からは,どのくらいの欠陥まで見えるのかなど,具体的な質問が出ていましたが,この放射光施設は,企業の利用が可能な施設ということでもあり,2023年に完成予定で,運用開始後の地域企業の活用に非破壊検査応用が期待されそうです。
講演会に引き続き支部会では,表彰と事業報告が行われました。令和3年度の特別功労賞は,故 谷村康行氏に贈呈されました。谷村氏は令和2年1月に他界なされましたが,この時点で東北支部の特別功労賞のご受賞が内定されており,令和2年4月の支部会で賞の贈呈と受賞者としての特別講演を行って頂くことが決まっていました。コロナ禍のために令和2年度の東北支部支部会も中止になってしまいましたが,谷村氏の貢献に対して今年度の支部会において特別功労賞を贈呈させて頂きました。授与には、ご子息の谷村氏が代理出席してくださいました。
谷村氏は,東北支部において浸透探傷レベル2の学科・実技試験の講習会を立ち上げる際に,準備段階から様々なご尽力を頂きました。講師として受講生を教育する傍ら,後進の講師の育成,講習方法の改善点の模索なども行い,当支部の発展に尽力してくださいました。谷村氏に立ち上げて頂いた浸透探傷試験は,現在,当支部にとって超音波探傷に次ぐ大事な講習会になっております。また,非破壊検査のおもしろさ,奥深さを惜しげもなく共有してくださる姿は後進の若者達にとってお手本となる存在でありました。本誌面を借りて,改めて感謝と敬意を示し,ご冥福をお祈りするとともに,特別功労賞の報告とさせて頂きます。
今年度の奨励賞は,学術講演で発表した新進の若手研究者から1名を受賞者として選定しました。奨励賞は,講演題目『微小欠陥検出のための横波励起エバネッセント超解像映像法の提案と基礎検討』の研究発表を行った東北大学大学院工学研究科の大薮陽太氏が受賞されました。
支部会の事業報告は,事前に電子メールで配信したPDF資料に基づいて三原支部長から報告されました。今回のオンライン支部会では,参加申込を行った会員にパスワードをかけた会議資料を配信し,これに基づいた事業報告を行いました。
今回のオンライン支部会・講演会で工夫したポイントがいくつかあります。上記の会議資料のパスワード付き事前配付の他にも,参加者登録とアクセスURLの送付は,非破壊検査協会本部が契約しているオンライン会議ツールを使い,これの自動返信機能を使って参加者登録とURL送付を行いました。講演発表者の中から1名の奨励賞受賞者を選定する際は,メインの支部会の会場とは別のオンラインミーティング会場に選考委員が集まって審議ができるように準備しました。表彰式の際には,オンライン上では賞状の受け渡しができないことから,画面上に授与者と受賞者の顔と表彰状の文面を映し出して授賞の臨場感を演出しました。
このコロナ禍の状態から開放されて,支部会が懇親会付きで通常開催できるようになるまで,あと少しの辛抱なのかと思われますが,このような形で東北支部の支部会・講演会が行われたことを今回の支部便りとして報告させて頂きます。通常開催では,会場や講演の風景を写真として掲載するのが常なのですが,オンライン開催ということで,掲載できる写真が確保できませんでした。このため,文面が中心の報告になりましたことをお詫び申し上げます。最後に,仙台に建設中の次世代放射光施設の完成予定図を示して締めくくりとさせて頂きたいと思います。
(文責:宮城県産業技術総合センター 中居 倫夫)